そこでニックは小さく息をつき、目の前にあるお茶に手を伸ばすと一口啜った。

「そんな…、お前が、病気…?
それも、カレンと同じ…?」

ロイは信じられない思いでニックを見返した。

言葉がうまく紡げない。

両親を亡くし、妹も死なせた。

その上、離れていたとはいえ、実の弟までも失ってしまうというのか。

誰か嘘だと言ってほしい。
そんな思いが見受けられる。


逆にニックの方は、もう運命を受け入れる覚悟はできているようだった。

「あぁ。だからあの時…、兄さんを刺せなかった時、殺してほしい…、そう思った」

「そんな…、馬鹿野郎…」

込み上げる涙を堪え、ロイは呟くように言った。

「あの時、僕は、確かに兄さんを殺そうと思った。だけど、……」

ニックはそこで何かを思い出したのか、言葉を詰まらせた。

そして嗚咽だけが漏れる。

「…だけど、駄目だった。
…カレンが、あいつが、僕の目の前に、立ちはだかったんだ」

涙混じる声で、ニックはそう続けた。

ジャンがその様子を痛々しげに見つめている。

そうか、あの時ニックの動きが一瞬固まったように見えたのは、そのせいだったのか。とジルは確信した。

あの時確かに彼は、何かに気を奪われているようだった。