「「あ……」」



ドアが開いた瞬間に、馬鹿づら丸出しで固まった私と、驚いたように目をまん丸にする青年が同時に声を発した。
呆気なく見つかってしまったのだ。



「…あ、えっと、その……とりあえず……ごめんなさい」


「あ、はぁ……」



とりあえず、何を話したらいいのか分からなくて、そのまま勢いで謝る。


だけど、この青年は不思議そうに首を傾げているだけ。
むしろ、何故私が謝ったのか、疑問に思っているみたいだ。
……気まずい。



「おい……」



次の瞬間、不意に奥の方で聞こえた声は、今まで聞こえて来たものとは全然違う鋭く突き刺さるような声色。


その声に、思わず後ずさる。
このままだと自分の身が危ない。
そう思うぐらいに怖い声だった。


たった一言、
"おい…"
それだけなのに……



背中を汗が伝っていった。
だけど、その背中に何かがトンっと当たる。
……。



「あれ?君、いつからそこにいたんだい?」



恐る恐る、声のした方に顔を向ければ、甘い顔した青年が私に微笑みかける様に笑った。
それにつられて、私も笑うが……
全然笑えない。



「沖田くーん、何か買いに行く途中なら俺とこの子の分も買ってきてよ」



彼の綺麗なウエーブがかった髪が、風に遊ばれている。
私の本心を知ってか知らずか……
その髪を邪魔そうに耳かけると、彼はまた、ニコリと甘く笑った。


……悪魔の微笑み。



私の逃げ場が、閉ざされた瞬間だった。