「ねぇ、そろそろ初めようか?」



その甘い顔がニコリと微笑む。
いつものように、自身の座る場所から立たないこの男は、そう言うと自身のコップに口をつけた。
だけど、この男の微笑み方は、何処か違和感を感じる。



「いや、しかし……」

「……いくぞ」



尊敬してる人の制止の声も聞かず、いつもより一段と低く威嚇するように私の後ろで声がした。


その人は、私達の方を振り返る事なく、スタスタとドアに向かっていく。
その後ろ姿は、まさしく"ラストサムライ"なんて言葉が似合ってしまう程に男らしい。



「あー、もう。
本当、土方さんて強引ですよねー」



その後ろをピョコピョコとうさぎの様に付いていく彼は、そういいつつ少し楽しそうに笑ってみせた。
少しの甘ったるい蜂蜜の匂いが彼の存在を主張する。



「……おい歩。てめぇはどーするんだ?」



相変わらず私達に背を向けて、だけどドアを開けずに私の答えを待っている。
馬鹿な土方さん。
そんなの、答えなんか決まってる。



「そんなの、行くに決まってます!」



そう答えれば、ふっと微かに微笑んだ。
そう答えが返って来るのを知ってたみたいに……



「さすが、俺の小姓にしただけはある。上出来だ。……来い。」