お姉ちゃんの良いところは知ってるけど、何かガミガミ言いそうだし。
キスさえしなさそう。
あたしの同級生の中には、彼氏が今まで10人以上いた子もいるし、キスなんか普通にしてる。
「お姉ちゃんが彼女で面白いの?」
ホントに不思議すぎて、あたしは凪裟くんに聞いた。
あんな純粋すぎるお姉ちゃんを彼女にするって、絶対面白くないはず。
でも凪裟くんから返ってきた答えは、あたしが思っていたのと違った。
「面白いぞ。アイツの反応の一つ一つが面白い。それに、アイツは俺が初めて好きになった女だから」
初めて好きになった女
凪裟くんってもしかして、遊び人だったりするのかな?
お姉ちゃんが好きになった人に限って、そんなことあるはずない。
だって、あのお姉ちゃんだよ。
女遊びをしていた人なんかを、好きになるなんて…。
でも凪裟くんは有り得ないくらいかっこいいし、絶対女の子にモテモテのはず。
お姉ちゃんは特別美人ってわけでもないし、どっちかと言うとフツーだし。
お姉ちゃんより綺麗な人が寄ってきたら、心移りする可能性だって大きい。
「凪裟くんってさ」
「ん?」
「お姉ちゃんを…傷つけないよね?」
気付いたらあたしは凪裟くんに聞いていた。
凪裟くんは暫く考えてから、ふふっと笑った。
「俺がアイツを傷付けたら夏はどーする?」
そんなの決まってる。
いくらお姉ちゃんが大好きな人でも、お姉ちゃんを傷付けたら
「凪裟くんをみじん切りにしてあげる」
「じゃあ、されないようにしねーとな。まぁ、傷付けることはねーけどな」
嘘か本当かは分からないけど、不思議と凪裟くんを信じれる。
「約束だよ?」
「あぁ、約束だ」
凪裟くんは子供っぽく笑って、あたしの小指に凪裟くんの小指を絡ませた。
お姉ちゃんを傷つける人は、このあたしが許さない。
あの時みたいに、お姉ちゃんを泣かすような人はあたしが…殺したっていい。
―――同時刻、薄暗く不気味な倉庫。
そこには、二人の男女が不気味に笑いながら語っている。
広い倉庫に置かれている1つの小さな机には、2枚の写真が無造作に並べられている。
その写真の1枚には、不機嫌な男が。もう1枚には、笑いながらその男を見てる女が写っている。
「ねぇ、そろそろ始めてもいいんじゃない?」
「ふっ。そうだな。パーティーの始まりだ」
男は低い声でそう言い、どこからかナイフを取り出し写真に突き刺す。
「咲本凪裟。次はお前の大切なものを奪ってやる」
★空side
「何かごめんね。ほとんど凪裟にやらせちゃって」
「別に大丈夫」
咲本凪裟の思い付きで、あたしは今日だけ後片付けを春達にやってもらったんだけど…。
春は夏の足を引っ張って、夏はそんな春を怒鳴り、最終的に喧嘩をしてしまった。…取っ組み合いの。
だから必然的に、咲本凪裟がすることになって…。
「春と夏、謝りなさい」
「「ごめんなさい」」
キッチンには、春を絶対立たせないとあたしは神に誓った。
もし春が立ったら夏と喧嘩して…、恐ろしいことになりそう。いや、なった。
何の罪もないお皿達が、次々にパリンと音を鳴らして形がなくなっていった。
それを全て片付けてくれたのも咲本凪裟で、今日は咲本凪裟にお世話になりっぱなし。
本当に感謝感謝だよ。
あたしが咲本凪裟を見ながら感心していると、
「凪裟くん!明日日曜日で学校お休みでしょ?だから、今日はお泊まりしてよ」
夏が変なことを提案してきた。
「「は?」」
突然の夏の提案に、ビックリするあたしと咲本凪裟。
夏は咲本凪裟に近付いて、何かこそこそと話してる。
咲本凪裟は「んー」と考えながら、ニッと笑って「仕方ねぇーな」と言った。
な、何が仕方ないのよ!
「凪裟くんありがとーっ★」
と言うわけで…。
「何であたしの部屋なのよ!」
「別にいーじゃねーか。俺ら、付き合ってんだし」
咲本凪裟は泊まることになったんだけど、客間じゃなくてあたしの部屋でくつろいでる。
「そーだけどさぁ…」
ハッキリと答えを出さないあたしに呆れたのか咲本凪裟は「ふーん?」と言って、地べたに座るあたしの顔を覗きこんだ。
「な、何よ?」
「俺のこと嫌いなのか?」
は…い?
何でそこで、そんなこと聞かれないといけないのよ。
「き、嫌いじゃないよ」
〝好き〟の一言が出てこない。
「嫌いじゃなくて?」
咲本凪裟はあたしとの距離近づけて、ニヤニヤしながらあたしを見てくる。
ムカつくけど、怒れないあたしがいる…。
「嫌いじゃなくて…えと…。す、」
「す?」
「す…」
「す?」
「すき…
焼き」
あ、あたしのバカァァァァァ!
何でここで、〝すき焼き〟がでてくるのよ。
咲本凪裟も完全に、呆れちゃってるじゃない!
咲本凪裟はと言うと、「すき焼き食いたいのか?」って、笑いながらあたしに聞いてきた。
「いや、そうじゃなくて…。凪裟のこと、」
「俺のことが何?」
わ、分かってるくせに…。
でも、言わなきゃダメだよね。
〝すき焼き〟じゃなくて…
「好き…。ってか、今日何回も言ってる気がする」
「ふっ。…そーだな」
咲本凪裟はあたしのベッドに腰掛け、「ほら」と言って自分の隣をポンポンと叩いた。
どーゆうこと?
「来いって」
そう言って咲本凪裟は、あたしの腕を引っ張った。
突然のことで、あたしはバランスを崩してしまって…咲本凪裟の膝の上に座ってしまった。
「ごめんっ」
あたしが立ち上がろうとすると、咲本凪裟が後ろからあたしを抱き締めてそれを阻止した。
「ちょ…、凪裟?」
「…ん?」
『…ん?』じゃないよ!
「こ、これは何のつもりかなぁ?」
「イチャイチャするつもり」
イチャイチャって…。ラブラブカップルが、人目を気にせずするあれ?
き、キスしたり、ハグしたり、あんなことやこんなことを…するあれ?
「そーら」
「な、何?」
咲本凪裟はあたしの名前を呼ぶと、より強くあたしを抱き締めた。
「………」
そして、何も話さなくなった。
「凪裟…?」
名前を呼んでも返事がない。
あたしの耳元では、寝息が聞こえてきた。
「ふふっ。寝ちゃったんだぁ」
恐れられてるあの咲本凪裟が、心地よく眠ってる。
あたしはそっと咲本凪裟の腕から抜け出して、咲本凪裟をベッドにゆっくりと倒した。
何かあたし、悪いことをしてる気分なんだけど…。
あたしもそのまま横になって、咲本凪裟の横で眠りについた。