久しぶりの温泉は気持ち良くて、滑らかに肌を滑るお湯を見つめながら、声を殺して泣いた。

…あたしの涙は、いつになったら枯れるんだろう…


「変わんないね、お風呂で泣くの」


はっ?



「…ぇっ!?な、なんで桜ちゃんが居るの?」


ここ女湯だよ?



「今日はここを使うお客が居ないからね」


「こ、答えになってないよ…?」


分かってるよ?だからあたしも大浴場を使ってるんだし…



「このお湯に入ってたら見えないだろ?
僕は一応タオル巻いてるし」


確かに見えはしないけど…

白濁したお湯を見て、少し安心はしたけれど、やっぱり一緒に入るのは変だと思う。


「前は良く一緒に入ったでしょ?」


前って……そりゃあ小さい時は一緒に入ったけど、もう二人とも成人した大人なんだよ?

やっぱりおかしいでしょっ!



「気になるなら、バスタオル巻いておけば?」


そう言ってバスタオルを差し出す桜ちゃんを、恨めしさを込めて見上げた。


だって…桜ちゃんが男湯に行けば済む話だよね?



「おいで」


お湯の中でおたおたとバスタオルを巻き付け終わると、桜ちゃんが両手を広げて言った。



「…ぇ…?」



「人肌ってものは、安心するからね。
一人で泣かないの。これからは僕が側にいてあげるから」



そう言われると、一旦止まっていた涙がまた頬を伝って、小さな波紋を作った。


うつむいたあたしの側に近づく気配がして、気が付くとあたしは桜ちゃんの腕の中にいた。


細くて華奢に見える桜ちゃんも、服を脱ぐと細身ながら引き締まった筋肉が付いていて、こんなに綺麗なのに男の人なんだなって思う。



「辛かったね。
泣きたいだけ泣きな?」


耳元でささやく桜ちゃんの声は少し高めのテノールで、あたしの耳に一番心地よく響く声だった。