走りながら頭の中にこだまするのは
桜ちゃんの甘い声。

あんな声で呼ぶんだ…



『…本当は……十夢以外なにもいらないのに…』



泣いてるかのような声が
いつまでも、いつまでも耳の奥に残っている。



分かっていた筈なのに…


桜ちゃんに必要なのは、あたしじゃなくてあの人で、桜ちゃんはあたしの事を妹としか見ていないって。



…せめて、桜ちゃんの想いを叶えられたらと思うけれど、あたしは普通の接客すらまともにこなすことが出来なくて、継ぐなんて絶対に無可能だ。



「桜ちゃん……」


ずっとずっと好きでした。
今だってすごく好きなんです。

でも、桜ちゃんにあたしはいらない。

足枷にしかならない自分が嫌で、いつの間にか涙がこぼれていた。



走り出した足は止まらなくて、裏口から外へ飛び出した。

夕闇が辺りを満たす中、ただ宛もなく泣きながら走るのは恥ずかしいと、僅かに理性が語りかける。




だから、あたしは山に行くの。

一人で入った事は無くて、ましてや黄昏時になんて考えた事すら無かった


裏の山に…