「まぁね、そろそろ逃げられないかも…」



「なぁ、お前がここを継ごうと思ったのは、花乃ちゃんが夢を追ってたからだろう?
花乃ちゃんが帰ってきてんだから、お前が継がなくてもいんじゃねぇか?」



「そうはいかないよ、花乃が継ぐのは…難しそうだし」



…ぇ…?どういう事?



「…あの子がしっかりしてたら……お前は俺と外に出たか?」



「…十夢……」



「なぁ桜介、俺はお前を忘れられそうにねぇんだよ。一緒に来いよ」



「…なんでそんな……」



「お前にとって大事なのは、カメラでも俺でも無くて、あの子と旅館なのか?」



「十夢…」



「桜介、俺にはお前が必要だ。
お前に、俺は必要ねぇのか?」




知花さまが桜ちゃんを抱き寄せたであろう衣擦れの音が、やけにクリアに聞こえてくる。

微かな水音と、甘い吐息が聞こえた途端、頭の中が真っ白になった。