晴れた空には、入道雲ではなく鱗雲がちらほら見える。
でも、まだ秋と言うには夏の輝きが強くて、強いて言うなら夏の終わり。
そんな名残の夏を、一人縁側で感じていた。
「光さーんっ!」
元気な声がして、瑞穂ちゃんが光さんを追い掛けていった。
近頃、瑞穂ちゃんは光さんにご執心。
妹にしか見えないと、毎回かわされる様子が、どこか前の自分と被ってしまう。
まぁ、恋多き乙女である瑞穂ちゃんの心配を、あたしがするのもお門違いかも知れないけれど。
少し傾いたお日様が、裏庭に長い影を作る。
やっぱりもう向日葵と言うよりは、秋桜が似合う日の光。
すっかり那月さんが苦手になった向日葵は、もうどれも頭を垂れている。
来年の種の為にと残されているそれらは、夏の終わりを惜しんでいるように見えた。
「花乃、今日はどうするん?」
「……行ってこよっかな」
「じゃあ、うちの分もおむすび作ってな!」
明美ちゃんは、そう言って無意識なんだろう、手を上げて髪にさした飾り櫛に触れる。
それは武さんが贈った物で、二人の距離はゆっくりとだけれど近付いていると思う。
そしてあたしは、新しい仕事が入ったんだと気合いの入っていた那月さんが、ごはんを抜いてしまわないようにおにぎりを持って行く。
那月さんに教えて貰って、その後板場の片隅で練習して、なんとかおにぎりはまともに作れるようになった。
後は、卵焼きとタコさんウインナー。
……タコさんウインナーって料理って言うのかな?
だって、油はまだ危ないって唐揚げは教えて貰えないの。
武さんの過保護っぷりは相変わらずだ。