ちょっと上を見上げると、あたしを見下ろしている那月さんの漆黒の瞳と目が合った。
柔らかな微笑みを浮かべる綺麗な顔が近付いてきて、優しいキスをくれる。
そっと触れてるだけなのに、頭の芯が痺れるほど狂おしい。
「花乃、私は花乃だけを愛しています。
人に会う事が苦痛で無くなったのは、花乃のお陰です。まぁ……相変わらず苦手ではありますけどね?」
「……あたしでも、那月さんの役に立ってるの?」
「役に立つなんて物ではありませんよ。私の人生を変えてくれたのは、花乃ですから」
少しだけ、ほんの少しだけだけど、自信の芽くらいが出てきたかもしれない。
まだ地上に出てはいなくても、固い種の殻を破って小さくだけど芽が出たところ。
自信があると胸を張って言えるくらいまで、花を咲かすくらいまで育つのはまだまだ先かも知れないけれど、確実に一歩を踏み出せた。
「那月さん……わがまま言ってもいい?」
「花乃のはわがままとは言わないですけどね。どうぞ」
「………ずっと、あたしの隣に居て下さい」
ちょっと目を見開くと、切れ長の瞳が弧を描いた。
「何度もそう言ってますよ?
嫌だと言っても、離してあげません」
うん、いっぱい言ってくれてたよね?
でも、今あたしから言いたかったの。