「花乃……それは……
いえ、これは見てもらった方が話が早いですね」



何かを言いかけた那月さんは、いきなりあたしを抱き上げると夜の山道を走り出した。



「なっ、那月さん!」


「離してしまったら花乃が逃げるかも知れないですから」



それなら手を引くだけで十分なのでは……

でも道を急ぐ那月さんの腕の中で、抗議の声を飲み込んだ。

だって、すっごく急いでるから跳ねるんだもん……喋ったら舌噛みそうで……


流石に息が上がった那月さんが、珍しく荒っぽい仕草で戸を開けた。


でもあたしは、直ぐには変われなくて……

その瞬間に、『ひなこ』が出てくるじゃないかって、思いっきり目を瞑ってしまった。

そっと土間に立たされても目を開ける事が出来ない。




「これが、その寝言の正体です」



那月さんの声に、恐る恐る目を開けると畳一面に広がった沢山の器が見えた。



「器……?」


「よく見て下さい」


「ぇ?……あーっ!!」


近寄って見ると、その沢山の器全てに『ひなこ』と書かれていた。



「私にロリコンの気があったとしても花乃限定です。それに焼きもち妬くにしても、新生児ではいくらなんでも早すぎですよ」


「新生児……」


「えぇ、出産の内祝いにって事なので。と、言いますか注文受けた時はまだ胎児でしたしね?」



これだけ書けば、寝言も言うか……

ぇ……?じゃあ、あたし長いこと新生児に焼きもち妬いてたの?

はずかし……