ゆっくりとあたしの方に歩み寄る那月さんの表情は、月明かりを背にしているから分からない。
それでも、いつも隣に立つ那月さんが、少し離れた場所で足を止めたのは、昨夜のあたしの言葉のせいだろうか……
それとも……?
「花乃……鈍感ですみません。私は何をしてしまいましたか?」
人一倍鋭い筈の那月さんが言うと、どこか不自然だけれど、膝まづいてこちらを見る瞳は真剣で不安げだ。
「ううん、那月さんのせいじゃないの……あたしが那月さんをちゃんと信じれて無かったのが悪いの」
「花乃が、疑ってしまうような事を私がしたんですね?」
「あたしね……裏切られる事をいつもどこかで怖がってた。那月さんがどうとかじゃなくて……人をいつも疑ってたの」
泣いちゃいけない。
ここは泣くところじゃない。
しっかり胸の内を話さないと、あたしは那月さんを失うかも知れないんだ。
零れそうになった涙を拭って、しっかりと那月さんの目を見つめた。
「今までは、それも仕方ないってどこかで思ってたの。……回りの人のせいにして過去のせいにして……前進しない自分の言い訳にしてたの」
「……花乃」
「それじゃ……ダメなんだよね。
あたし……まだまだ自分に自信は持てないけど、那月さんの事は信じようって信じたいって思ったの」
同じ場所で足踏みしてるのは止めようって、ついさっきだけど決めたの。
だから……
「おにぎり教えて貰った日ね?
……那月さん、寝言で女の人を呼んだの」
「えっ?」
「『ひなこ』って」
ちゃんと、その場で聞いていれば那月さんをここまで困らさないで済んだかも知れない。
例え、返事があたしの望む物では無かったとしても……