……那月さんを信じる。

挫けそうな気持ちを、その言葉でなんとか奮い立たせて裏口から外に出た。


不安で、最悪の場面が幾度となく頭の中で再生される。



やっと月の原についた時、足は如月窯ではなくて月の原の祠に向いていた。


……どうか、那月さんに聞く勇気を下さい。


祠に手を合わせて祈ってから、梢の隙間から夜空を見上げる。


供える物は何もないから、せめて歌をと息を吸い込んだ。



何も考えずに出した声は、ちゃんとアヴェマリアのメロディーになって夜空に舞い上がる。

切ない想いを、不安な気持ちを、歌に乗せて夜空に解き放った。


お母さん……どうか、あたしに勇気を下さい。

願いを込めた歌はお母さんに届いただろうか。


何となく次に口から零れたのは、アメージング.グレイスだった。

祈りたい気分だったからだろうか……




途中から、甘めの低い声があたしの声に重なって、夜の月の原に満ちた。

歌い終わって、木々の囁きだけになった所で、先に口を開いたのはあたし。



「……那月さんの歌を聴いたのは、子守唄以来だね」


「……今日は楽器を忘れてしまったので」



ねぇ、あたしの所に行く途中だったって思ってもいい?