「しばらく出て来ないってよ?」
「ねぇ、あの髪の毛の色とか有りなの?
私なんてここに就職する為に、黒くしたのにぃ~」
「あ、あれ地毛らしいよ?」
「ふ~ん…なんか勿体ないよね。
せっかく若旦那に似てるのに、暗くってさ」
「あの暗さがダメなんだって。
接客向いてないよね」
更衣室から聞こえてくるのは、あたしの心を抉る言葉の数々で、でも痛いのはそれが全部図星だからだと思う。
さっさと通りすぎたいのに、足が重くて動かない。
「ちょっと、いい加減にしなさいな」
「はーい」
たしなめるような恵美さんの声も、大して怒ってはいなくて、その声からも同意が感じ取れた。
…あたしの居場所は……?
あたしの足は考えるより先に、桜ちゃんの部屋に向けて歩き出していた。
桜ちゃんに会いたい…
その甘えた心が、更に苦しい事になるなんて、廊下を急ぐあたしは思ってもみなかった。
「相変わらず縁談は断ってんのかぁ?」
開けようとしたドアの向こうから聞こえたのは知花さまの声で、内容も内容だけに動く事が出来なくなった。
動かなくなった足は、その場に縫いとめられたみたいで、耳は聞きたくないのに言葉を拾ってしまう。
…桜ちゃんがお嫁さんを貰ったら
それこそ本当にあたしの居場所は無くなる…