「花乃、傷の具合はどうですか?」
「もう痛みはしないです」
これからどうするか決める為に、あたしは今おばあ様の前できちんと正座をしていた。
「…傷は、残ったのですね」
「はい…」
見苦しいかと思って、まだ包帯をしたままになっている手の甲は、痛々しく皮がつれている。
「嫁入り前の女子が…
まぁ、言っても仕方がありませんね。
花乃、あなたはしばらく旅館の方には顔を出さなくてかまいません。人手は足りてますからね」
「で、でもそれじゃあ……」
あたしの存在意義は?
せめて手伝い位はさせてほしい。
そう思いを込めておばあ様を見ると、ため息をつかれてしまった。
「花乃、今のあなたでは月守旅館の接客はさせられません」
「………」
「ここにはマニュアルは、ほとんど無いんですよ。
自分で進んでお話したり出来なかったら、初めてのお客さまは不愉快になるかも知れません。常連のお客さまは不信に思われるかも知れません。
分かりますか?」
「…はい」
「桜介のように、とは言いません。
せめて新しく入ってきた子くらいは笑顔を見せなさい。出来るようになったら旅館に戻します」
「はい………失礼しました」
おばあ様の部屋を出ると、とぼとぼと自分の部屋に向けて歩き出した。
おばあ様は、あたしが知ってるのを知らないと思うけれど、接客の質が落ちたとクレームが入っていたらしい事は知っている。
それはたぶんあたしの事で、困ったねぇと話す恵美さんの言葉を、たまたま襖越しに聞いてしまったのは内緒だ。
「花乃さんって、いつ出てくるのかな?」