「…なるさ」
なってくれねぇと、俺が桜介を連れ去れねぇ。
悪いやつだよなぁ?俺って。
あの子が早く笑えるようになれば良いって思うけれど、八割がた自分の為なんだから。
「可愛いんですよ。めったに笑いませんけどねぇ」
「だろうな」
ここに来てから泣いてる顔ばかり見ている気がするけどな…
「では…ひとまず失礼します」
俺は、武さんが板場に戻ってからも、何も手に付かずにぼんやりしていた。
「…フニャア」
「お?モモか……
なぁ、お前のご主人様はどうしてる?」
「ンニャ」
「やっぱ…想夜じゃねぇと分かんねぇか……」
フワフワの白い猫は、なんでだかしょっちゅうこの部屋に遊びに来る。
普段は人嫌いで、旅館の方には近寄りもしないらしいんだが。
「お前の人嫌いは、ご主人様似なのかぁ?
まぁ、俺に敵意剥き出しって所が違うけどなぁ」
ゴロゴロと喉を鳴らすモモを撫でながら、庭先を見るともなく眺めていた。
「…桜が……咲いたら…」
何かが動くかも知れない…
なんとなく、そんな気がした。