「安心しましたか?
さて、それより私が知りたいのは、誰が花乃の髪を乾かしたのかって事です」
「僕だけど?」
オムライスを口に運びながら、桜ちゃんが返事をした。
「私の楽しみを奪うなんて、いい度胸してるじゃありませんか」
「なぁに言ってんだか、先に僕の楽しみを奪ったのは那月でしょ?」
二人とも、そんなに髪の毛乾かすのが好きなの?
美容師さんとか向いてるのかなぁ。
「花乃の頭の中が見えるんだけど……」
「同感です」
「だなぁ」
なんかよってたかって馬鹿にされてるような気がする。
……たぶん、気のせいじゃない。
「さて、もう遅いですからお引き取り下さい」
「なぁに言ってんだよ。遅いからこのまま泊めてくれるんだろぉ?」
「ふざけないで下さい。月守旅館にでも行けば良いでしょう」
「おいおい、祭りの夜に来て予約も無しに泊まれる訳ねぇだろぉ?」
断固追い出そうとする那月さんと、のらりくらりと居座る知花さま。
「桜ちゃんの部屋は空いてるけどねぇ」
「まっ、二人とも楽しそうだから良いんじゃない?」
のんびり話をしながら、それを眺める桜ちゃんとあたし。
夏祭りの夜に、いくつかの恋の蕾が開きました。
それらのいくつかが、生涯を共にする程に愛を実らせるのは、まだ少し先の話。