「花乃ちゃん、腹減ったかぁ?」
お風呂からほかほか湯気を上げて出ると、釜戸の所でお玉を持った知花さまが、何やらごはんを作ってるようだ。
「う~ん、あんまり……」
知花さまは、さっき屋台で食べた物はもう消化しちゃったの?
「残念だなぁ、まぁ明日食べてくれればいいか」
えっと……その隅っこで眉間に深くしわを刻んだ那月さんは放置ですか?
そっと隣に座って着替えだけはしたらしい那月さんの髪を、持っていたタオルで拭いた。
「那月さん、服借りたよ?」
「……花乃を今すぐ食べたいんですが……」
そう言って射殺しそうな視線を知花さまと桜ちゃんに送った。
……お二人は慣れた物で、気にもしていなかったけれど。
「那月さんも暖まってきたら?」
「花乃、十夢の馬鹿野郎が近寄って来たら、迷わずひっぱたいて下さいね?」
渋々立ち上がった那月さんは、そう念を押してお風呂に向かった。
「僕なら良い訳?」
「貴方より花乃のが上手ですよ」
その後ろ姿に桜ちゃんが投げ掛けると、那月さんはにっこり微笑みながら言った。
それを聞いた知花さま、がお鍋の蓋の向こうで吹き出している。
あ~あ、今度は桜ちゃんがむくれちゃった。