「な、那月さん……ちょっとまって……」
「あっ、すみません。このまま抱いて行った方が早いですね」
息が切れて、すっかり体がポッポッしたあたしは、那月さんに抱き上げられる事にも抵抗できなくて、残りの道を抱かえられて進んだ。
誰も見てないから良いようなものの……
「浮かれてましたね。自分と違って花乃はそんなに丈夫じゃないって事を、すっかり失念していました」
「まぁ、でも夏だし、それにあたし一生懸命歩いたから体暖かいよ?」
その時突然、那月さんの歩みが止まって、何事かと見上げると何故か眉間に深々と刻まれたしわに驚いた。
「那月さん、どうかしたの?」
「花乃、家に灯りが付いているのは、私の見間違いではありませんよね?」
「あれ?ほんとだ」
電球の灯りではないから、そんなに強くは無いものの、確かに母屋に灯りが点っている。
母屋っていうのは、窯や仕事場に対してのね。
まぁ、仕事場は隣接してるんだけど……
「そんなに死にたいんですか?」
引き戸を器用に足で開けた那月さんは、怒りに声を震わせて物騒な事を言った。