びしょ濡れのまま、手を繋いで月明かりの中を歩いた。

すっかりほどけてしまったあたしの髪は、無造作に那月さんのくれた簪で止めてある。

綺麗に結った髪も、丁寧にした化粧も、みんな流れてしまったけど、隣に那月さんがいてくれれば、それだけで良いと思えた。



明日、お母さんの所に報告に行こう。

でも、この柔らかい光であたし達を照らしてくれてるお月様にお母さんが居るんだから、すっかり見られて居るんだろうけど。



こんな幸せな気持ちになっていても、やっぱり決められない事がある。

……お父さんと、久美子さんの結婚式で歌うかどうかって事。


二人を祝福する事に、お母さんとの最後の約束をした『歌』を使って良いんだろうか……

お母さんが、嫌な思いをしないかな?



「花乃、まだ日はありますから」


「うん……」


「あれ?女将さんじゃないですか?」



那月さんが指差す方には、一番はじっこの屋台。

ちょっと他の屋台と違って、古風な木の台や時代を感じさせてくれる提灯が、どこか幻想的な雰囲気を作っている。



「あらあら、あなた達はよくよくずぶ濡れになること」



おばあ様……それは、あの大雨の日の事ですね……