「…じゃあ……ずっと一人で…?」
「…私らが気が付いた時には、もう嬢ちゃんは心を閉ざしてしまっていました。
…申し訳ありません」
深々と畳に額を付ける武さんの肩に、桜介の手が置かれた。
「武さんが謝る事は無いよ。
…悪いのは僕だ。花乃を置き去りにした僕が悪いんだ」
うっすら涙を溜める瞳には、後悔の色が浮かんでいた。
「桜介…自分を責めるな。
悪いのは俺だ。お前を連れ出したのは俺なんだからなぁ」
「違うっ!十夢は花乃の事をほとんど知らなかったじゃないか!僕は、僕は……」
まぁ、ほとんど遠巻きに睨まれていた記憶しかねぇけどな。
でも、それも仕方が無かったのかも知れない…
あの子の全てである桜介を奪ったんだから。
「僕が…気付いてあげれてたら…
もっと早く帰って来てたら…
僕は花乃の事を何も知らなかったんだ…」
「坊っちゃん、それは違うと思います。
嬢ちゃんは坊っちゃんの写真が大好きで、いつも楽しみにしていましたから…」
「…花乃の、眼鏡は……」
ごっつい顔を泣きそうに歪めて、武さんはまた手拭いを握り締めた。
…引きちぎれそうだな。
「目障りだと言われたそうです…
だから隠すのだと…」
「どこの誰が?」
桜介の目が、今にも殴り込みに行きそうに怒りで燃えている。
さっきまでのしょんぼりした姿からは、想像出来ないような荒々しい表情に、こんな時だって言うのに…
俺は妬いてんだ。
桜介を感情的に動かせる、あの子に。