「ちょっと汗を流してきますね」


そう言ってお風呂に行ってしまった那月さんを目で追ってから、またパウンドケーキに包丁を入れた。


那月さんの湯呑みと、自分の湯呑みを取り出して煎茶の準備は終了。

後は、那月さんがお風呂から出てきたところで、急須にお湯を注ぐだけ。



「楓ちゃんは何を飲む?」


足元で寛ぐ楓ちゃんのお腹を撫でながら話し掛ける。

初めて会った時は、小さな子猫だったのに、いつの間にかだいぶ大きくなっていた。


「楓には水でいいですよ」


「早かったね?」


「えぇ、花乃との時間が大切ですから」


なんでそんな言葉を真顔で言えるんでしょう……

あたしは、熱くなった顔を隠すようにして、急いでお茶を淹れようと立ち上がった。



「慌てて火傷をしないで下さいね?せっかく跡が消えたんですから」


「……はぁい」



そう、知花さまの言葉に動揺して、自分で熱湯をかけてしまった手には、那月さんが言った通り跡は残らなかった。