「武さんが…本当のお父さんだったら良かったのに……」
そしたら、あたしが捨てられる事も無かったんだろう。
あたしの呟きは、外の空気に触れた途端酷く無責任なものだったと気が付いた。
「ご、ごめんなさいっ!」
あたしは……あの人の娘で……
お母さんの眠るこの土地を捨てて、都会に出て再婚したような男を、快く思ってる筈が無いのに……
「良いんですよ。……いや、良いんだよ」
「武さん?」
「どこか意地を張ってたんだろうね」
敬語が取れた武さんは、それだけの事なのにだいぶ距離が縮んだように感じた。
二人でまったりと和菓子を食べる姿を、どこかでお母さんは見ているだろうか。
武さんに分けて貰ったコーヒーは、苦いけれど優しい味がした。