罰が悪そうに、頬を掻く武さんの手には、檸檬香と花束が握られていた。


二人で並んで花を供えると、静かに手を合わせる。

言葉は特にいらない気がして、武さんが持ってきていた水で墓石を洗った。

いつも武さんがやっているのか、殆ど洗う必要性なんてないんだけど……



二人が口を開いたのは、腰を下ろして武さんは珈琲を、あたしは和菓子を広げてからだった。


那月さんごめんね?
今日は、武さんと食べちゃいます。

心の中で那月さんに謝って、明美ちゃんの栗饅頭だけを退けると、石段にハンカチを広げてその上に残りを並べた。



「……微妙な組み合わせだね」


「ハハッ、ここで一服するのがまた良いですけどねぇ」


「ねぇ、武さん。なんで武さんはあたしに敬語を使うの?……ない方が良いな」



一瞬困ったように眉を下げて、ポツンと呟いた。



「そうでもしねぇと、嬢ちゃんを娘みたいに思っちまいますからねぇ……」


「……思ってくれたら嬉しいのに」



あたしも武さんをお父さんみたいに思ってるんだから。



「でも、嬢ちゃんには克也さんが居るでしょう?あんまりでしゃばれねぇですからね」



「お父さんには会いに行ったけど、それだけよ?同じ屋根の下で暮らす訳じゃないし……」



「それにしても、嬢ちゃんは日に日に雪乃さんに似てきますね」



話を反らすためなのか、心底懐かしそうな顔をしてあたしを見る武さんは、たぶんあたしを通してお母さんを見ているんだ。



「あたし……知らなかった……」



「そりゃあそうですよ。きっぱり振られちまってますからね」



恵美さんが、居なくなった日。

武さんが言っていた人は、お母さんだったんだ。



……なんだか、上手く行かないものだね。


ちょっと、お父さんがズルしてるような気がした。


だって、お母さんの心を射止めたのも、今形は違えど幸せな家庭を築いてるのもお父さんで

片想いをしていた武さんは、今でも死んだお母さんの為に、毎日こんな所まで上がってきてるんだから。