あたしは風邪がすっかり治って、明美ちゃんに栗饅頭を買うために、福田屋を訪れていた。
那月さんにもなんか買って行こうかなぁ……
栗饅頭と、いくつかの和菓子を包んで貰って店を出ると、店先の長椅子に置かせて貰っていた花を持って歩き出した。
今日は、何となくお母さんの所に行きたくなったんだ。
和菓子は壊れないように、そっと籠のバッグに入れて、花を持つ方とは反対の肩に掛けると、山道を登り始めた。
あの日の集中豪雨で、すっかり川になった山道は、今は少し埃っぽい位乾いて赤土を剥き出しにしている。
足元に気を付けながら登って行くと、すっかり濃い夏の緑に囲まれた墓地が姿を表した。
それでも、月守のお墓の回りは、綺麗に草が刈ってあって、誰かが度々訪れている事を教えていた。
誰なんだろう……
ふと、不思議になって辺りを見回した。
だって、おばあ様はこんな所まで一人では来ないし。
桜ちゃんが居ない今、月守に縁のある人はあたしとおばあ様くらいしか居ない。
「おわっ!?嬢ちゃん……?」
隣の墓石に隠れて見えてなかったのか、いきなり近くで武さんの声がした。
「えっ?もしかして…」
「ありゃ……バレちまいましたね。日課なんですよ」