読みながら涙が視界を邪魔して、何回も袖で涙を拭った。

お父さんは、あたしやお母さんの事を忘れてはいないんだ。

あたしを…過去にしてしまっては、いなかったんだ。



那月さんは、泣いているあたしの肩を引き寄せて耳元で囁いた。


「会いに行きましょう」


「でも……」


社交辞令だったら?
本当に来ると思っていなかったら、迷惑なんじゃないかな?



「迷惑なら、こんな手紙は書きませんよ」


「…那月さん…またあたしの頭の中…覗いた?」


「覗いてませんよ、人を覗き魔みたいに言わないで下さい。花乃の場合覗かなくてもけっこう顔に書いてありますからね」



笑いながらあたしのおでこに、コツンと那月さんのおでこがぶつかった。

フフッ、覗き魔だって。



「『約束』について、聞きに行きたいでしょう?一緒に行きますよ」


「……那月さんに隠し事したい時は、どうしたらいんだろう…」


「諦めた方が賢明ですよ」



そんな事を話ながら、那月さんが持ってきてくれた草履を履いて、夕べの道を月守旅館へ向けて歩きだした。