枕元で鳴るのは、レトロな作りの目覚まし時計。
ジリリリリリ……チン!
手を伸ばして目覚ましを黙らせると、間近にある那月さんの綺麗な顔を眺めた。
疲れているのか、目覚まし時計の音にはまったく反応していない。
那月さんって睫毛長いなぁ…
いつもは漆黒の瞳を縁取る睫毛は、今は朝日を浴びて影を作っている。
緩い呼吸が眠りが深い事を知らせていて、遅くまで仕事をしていたのだろうと、起こさずに帰る事にした。
そっと腕の下から抜け出して、顔だけ洗おうと井戸端まで歩く。
朝靄の中で伸びをすると、鶏小屋から何度目かの時を告げる声がした。
「あっ、おはよう楓ちゃん」
「私には無しですか?」
顔を拭う物を忘れてきたあたしに、手拭いを差し出す那月さんは、何やら色気が駄々漏れだ。
……眠気と色気ってイコールしたかしら?
「おはよう、那月さん」
「おはようございます。どうせ私を起こさないで帰ろうとしてたんでしょう?」
どうやらバレているようです。
でもね、那月さんとっても眠そうなんだもん。
「花乃と朝の抱擁をしないと、今日は仕事が頑張れません」
そんな事、自信満々に宣言しないで下さいよぉ…
とっても恥ずかしいですから…