「おや?」


仕事が一段落ついた所で、汗と泥を流そうと仕事場を出た私の目に飛び込んできたのは。

畳んでおいた布団が広げられて、いつの間に来ていたのか、楓と身を寄せあって眠る花乃の寝顔だった。


声を掛けるように言っておいたのに…
それとも、声を掛けてくれたのに、私が気が付かなかったんでしょうか?

ありそうな事を考えながら、風呂場に向かう。



可愛らしい花乃の寝顔をみたら、ちょっかい出したくて堪らなくなってしまいました。

これは…困りましたね。

取り合えず汗を流してきましょう。




どうしてか気が急いてしまって、烏の行水になってしまったけれど、花乃も楓も起きる気配はありません。

寝ている花乃を眺めていたけれど、どうしても名前を呼びたくなって、小さな声が口からこぼれ落ちてしまった。



「花乃……」


「…ん……」



あぁ、そんな可愛い声を出したら、起こしたくなっちゃうじゃないですか。

……困りましたねぇ。



ふわふわで柔らかな茶色の髪の毛が、気に入っていた蕎麦殻の枕からこぼれ落ちて広がっている。


ゆらゆらと揺らめく蝋燭の明かりに、 長いまつげが頬に作る影も、ほんのり色付く白い肌も妙に艶めかしい。


そっと髪をすくい上げると、くちなしの香りがふわりと舞った。


同じ香りな筈なのに、何故こんなにも揺さぶられるんでしょうか。