ノックはしないで勝手に入ってきて下さいと、那月さんに言われていたあたしは、なんとなく音を立てないように引き戸を開けた。
あたしが来る時は、たいがい閉まっている仕事場から、柔らかな光が漏れている。
そっと覗くと、ロクロを回す那月さんの背中が見えた。
…仕事中は作務衣なんだ……
確かに着流しは仕事しづらそうだもんね。
髪を無造作に後ろに束ねているのも、見慣れなくてドキッとした。
すりっとあたしの足に体を寄せてきた楓ちゃんを抱き上げて、上がり框に座り込む。
お風呂には入ってきたし、いつもの所にお布団は出してあるし、このまま寝ちゃおっかな?
「楓ちゃん、一緒に寝てくれる?」
「ミャア」
うん、一緒に寝てくれるみたい。
隣に那月さんが居ないのは寂しいけれど、真剣に仕事をしている邪魔はしたくないしね。
お布団を敷いて、楓ちゃんと薄掛けに潜り込んだ。
「那月さん……おやすみなさい…」
那月さんの匂いがする布団に顔を埋めると、なんだか一日の疲れが溶けていくみたい。
ゆるゆると力が抜けて、楓ちゃんの耳の裏を撫でながら睡魔に身を委ねた。