ポチャン…
お湯に浸かると、そっと曇りガラスの向こうを見た。
ガラス越しにも、那月さんが着物を脱いでいるのが見てとれる。
カラリと開いた引き戸に、慌ててあたしは背を向けると意味もなくお湯のなかを覗いた。
…ここも温泉で良かった……
乳白色のお湯は、あたしの貧相な胸も隠してくれている。
背を向けてても、那月さんの気配がひしひしと伝わってきて、お湯を流す音にさえも心臓が飛び跳ねている。
「花乃、入りますよ?」
「ぁ…」
あたしの背中に入ってきた那月さんの肌が触れた。
お風呂なんだから当たり前なんだけど…
どうしよう……
初めてだってこんなにドキドキはしなかった。
那月さんだから…
「ほんのり染まったうなじも色っぽいんですが、せっかくなので花乃の顔を見せてください」
何がせっかくなんだか分からないけれど、優しい声の裏に有無を言わさぬ強さを感じて、そっと後ろを振り返った。
うっ、これは殺傷能力高いですよ?
いつもサラリと下りている髪は、濡れているだけで色気を放っているのに、それをかき上げて後ろに流している。
いつもはたまにしか露にならない那月さんの顔のラインや、首筋が色っぽくて目の毒です…
「フフッ、やっぱり花乃の顔が見れた方が良いですね。後ろから抱き締めてるのも、なかなか捨てがたいんですが」
切れ長の漆黒の瞳の中に、小さなあたしが映っている。
スッと通った鼻筋も、形の良い唇も、こんな間近で見ることはあまり無くて、どうして良いのか分からなくなった。
那月さんの足の間に座っているあたしは、一応胸を隠そうと体育座り。
…うん、色気なんて欠片もない自信がある。
情けない自信に心の中で頷いていると、不意に那月さんがあたしの手を握った。
それだけで心臓が家出してしまいそうなのに、那月さんはその手の甲にやわやわと唇を寄せる。
「な、那月さん……」
「花乃、花乃は分かりやすいから気持ちを汲める所もあります」