慌ただしい一日を終えて、やっと自分の時間が訪れた。
まぁ…諸々の雑用は有るんだけど……
この際、後回しにしよう!
那月さん不足が深刻化する前にと、着物からTシャツとジーンズに着替えると、アップしていた髪を下ろして片側に寄せてシュシュで止める。
……色気のいの字もない格好だ…
今度、可愛い服でも買いに行こうかなぁ…
もう夜っていい時間だけれど、だいぶ日が長くなってきてまだうっすら明るい。
いつも通り明かりを持たずに歩いて行くと、月の原に差し掛かった所で木々の向こうに人影が見えた。
「…那月さんっ!」
「花乃」
思わず駆け寄ってしまったけれど、那月さんは何か用事があったのかもしれないと、ちょっと遠慮して飛び付く事は出来ない。
「私に、会いに来てくれたんですか?」
「…うん」
頷くと近付くのを躊躇っていたあたしの肩を抱き寄せて、額にキスを落とした。
「な、那月さんっ」
「意地悪してすみません。
分かってたので迎えに来たんです」
「迎えに…?」
「えぇ、基本的に花乃に会う以外に、里に降りる必要はありませんから」
あたしの手を引きながら、那月さんは道を引き返しながら
「明日の朝、送って行きますから」
なんて耳元で甘く囁いた。