桜ちゃんが知花さまと旅立ってから、やっぱり寂しさが心の中に巣くっていた。
でも、くよくよする暇もないくらい忙しくて、おばあ様は真剣に求人を出そうか悩んでいる。
だって…どんな人が来るかまったく分からないのは怖いものね…
あたしが、だけど。
「花乃ーっ!百合の間のお客さんお着きやで~?」
階段の下で叫ぶのは、今だに橋口を名乗る明美ちゃん。
明美ちゃんは、あの後やめようとしたんだけど、おばあ様が好きなように名乗ればいいと言ったんだ。
その時の明美ちゃんの涙は、忘れられないと思う。
「はーい!武さんにも知らせてくれる~?」
「了解っ!」
「あら、何ですか。その言葉使いは」
明美ちゃんに小言を言いながらも、笑ってしまっているのはおばあ様。
おばあ様は、孫が増えたようだと明美ちゃんを可愛がっている。
もし、新しい人が来るとしても、こうやって仲良く出来るような人がいいな。
不安に思っても仕方ない。
実際人手が足らなくて、板場の人にまで迷惑をかけているのが現状だもんね。
「若女将、こちらは運んでしまって良いですか?」
「あっ、それは桜の間にお願いします」
あたしな事を若女将と呼ぶのは、新しく板場に入ったこの村出身の男の子。
…と言っても、あたしよりは年上なんだけど…