おかわりは?と聞きながら、手を伸ばす姿はやっぱり桜介に似ていて、桜介シックが激しく胸の中で暴れた。


「なぁ、今だけでいいから十夢って呼んでくんねぇかなぁ?」


「嫌です」


「…即答かよ」


にべもなく断られたけれど、想定の範囲内だから大したダメージも食らわない。


「…あたしは桜ちゃんにはなれないし、あなたの桜ちゃんの場所に浸入したくないの」


「花乃ちゃんケチだなぁ…」


「ケチで結構。
さっ、食べ終ったなら板場に持ってって。お客さまじゃ無いんだから」


「へぇい…」


あれだけ脆い姿を、なっちゃんの前では晒すのに、今は毅然と背筋を伸ばしている。

前みたいにひっつめるのでは無く、柔らかな印象を残すようにまとめた髪は一本の簪で止められている、なんで棒一本で髪が止まるのかは謎なんだが…


眼鏡が無くなって、別嬪さんな顔がよく見える。
…これは口説かれるだろうなぁ……

それはそれで心配だ、だなんて親父か兄貴みたいな自分の思考に苦笑する。


着物も昔から着なれているせいか、そんじょそこらの女の子とは着こなしが違う。

だけどなぁ…


「なぁ、花乃ちゃんってスカートとか着ねぇのか?」


「…似合わないから」


「似合わねぇ訳ねぇだろ?
たまにはフワフワヒラヒラしたのでも着たらどうだぁ?」


「瑠璃ちゃんみたいに?
今まで言わなかったのに、なんで今更?」


まぁ、確かに瑠璃を見たからってはある。

今日も翔の見立てであろう、レースとリボンのワンピースに、頭の上のお団子にもリボンが…巻き込まれてた……??んで結ばれてた?

あれってどんなったんだろうなぁ…
翔がやる事はよく分かんねぇ。