「なっちゃん、一言いいかぁ?」


「…断っても言うんでしょう?」


「分かってんじゃん。
花乃ちゃんにさ、あんな言い方じゃなくて『花乃が好きだ』って言った事ねぇだろ?」


あの微笑みは、自分の心を押し殺した微笑みだ。

まぁ、なっちゃんだって分かってると思うけどなぁ?


「言っていいのか分からないんですよ」


「分かんねぇ?」


「…十夢は、ちゃんとごはんでも食べて下さい」


「おいっ!」


はぐらかすように言うと、なっちゃんは俺の声なんて聞かずに縁側から姿を消した。

後に残ったのは、甘いくちなしの香りだけ。


「んったく……なんであれが言えて、本人を好きだって言えねぇんだよ…」



「十夢さーん!居なくなってなかったぁ」


飛び込んできた瑠璃は、お膳は翔に持たせていて、また全身で飛び付いてきた。

…瑠璃、後ろの男が怖いんだが……

本来、甘い筈の翔の顔が…



「武さんがねぇ、十夢さんは今日お休みで良いって!」


「…おいおい、良いのかよ」


「花乃ちゃんから聞いたよ~?
桜介帰ってくるって」


俺の前にお膳を置くと、翔が瑠璃を抱き寄せながら言った。


「あぁ」


「あれ?那月って奴は?
あいつが予言したんでしょ~?」


「…予言っつうか……」


てか、普通はもっと変な顔しねぇか?
こいつって、こんな信じやすい奴じゃなかった筈なんだがなぁ…

瑠璃に感化されたのか?