「花乃ちゃんは…?」


「寝てますね」


ずっと慣れない『私』で頑張ってたんだ。
なっちゃんの腕の中でなら安心して『あたし』に戻ればいい。


「頑張ったからな…
俺がギュッてしてろうかなぁ、なんて思ったんだぞ?」


「しなくて良かったですね」


俺の言葉にニッコリと笑って見せる、なっちゃんの笑顔が……かなり怖い。

冗談だって…

花乃ちゃんは、なっちゃんの腕の中で、泣きつかれたのかあどけない表情で眠っている。


「見ないで下さい」


「隠すなよぉ、減るもんじゃなし」


「十夢に見られたら減りそうで心配ですから」


…俺の目線ってどんだけ力あるんだよ……

その時、まだ俺の隣から離れない瑠璃が、服の裾をちょっと引っ張った。


「どうしたぁ?」


「あの…なっちゃんさんは、花乃さんの彼氏さんなのぉ?」


なっちゃんさんって変だろ。

ちょっと変な呼び方は、一応気を使っているんだろう。どうなの?と視線に乗せてチラリと見上げてくる姿は、やっぱり小動物にしか見えねぇな。

今度おっきな胡桃のクッションとか持たすか。…探してみよう。


「どうなんだろうなぁ?
俺も知りてぇんだけど、そこの兄ちゃんがケチで教えてくれねぇんだ」


「と、十夢っ!」


珍しく動揺するなっちゃんに、瑠璃の視線が移動した。