「そんな事しか出来なかったんですよ。ヘタレだったんで、まぁ…今も大して変わりはありませんが」
そう、自嘲するように苦く微笑むと、長めの髪をかき上げた。
その仕草が色っぽいなんて、今そんな事を思う自分はどこか少しおかしいのかもしれない。
「あたし、あの甘い香りにホッとしたんです。…でも、あの頃は知花さまの事…苦手だったから……」
「嫌いだったんですよね。ついでに花も嫌いになりましたか?」
那月さん、せっかく回りくどい言い方をしたのに…ズバッと言いますね?
「いえ…嫌いになれなかったから、イヤだったんです」
「あれは、くちなしの花ですよ。あと少ししたら、ここの庭にも咲き乱れます」
「くちなしの花…、まだ咲いてないんですね。
でも…あの……」
「はい?」
「那月さんから、同じ香りがします…」
ふわりと微笑んだ姿は、さっきと違って痛々しくなんかなくて、ただただ綺麗だった。
「えぇ、好きなんです」