それ、とは目の前の台に置かれた服の事だと思う。
待たせてはいけないと、転んだ拍子に肘の辺りが汚れたパーカーと、破けたジーンズを脱いだ。
……これは、大きい。
なるほど、あたしには大きくてワンピースになっていう予想でトレーナーしか置いて無いんだね。
…失礼な……その通りだけど。
バサリと頭から被ると、柔らかくて甘い那月さんの匂いがした。
…那月さんに抱き締められてるみたい……
ハッ!あ、あたし変態みたいな事を…!?
「花乃、着替え終わりましたか?消毒しますよ」
「は、はい!」
自分の心に芽生えた物に慌てて蓋をすると、痛い方の足を庇って変な歩き方をしながら部屋をでた。
「…なるほど、これは確かにそそられますね」
「はい?」
「一先ず、足を出して下さい」
口元を覆いながら言った那月さんの言葉は、今一つ理解出来なかった。
戸の真ん前にいた那月さんは、そのままあたしをそこに座らせて傷口を見た。
「派手に服は破けましたが、ジーンズが衝撃を吸ってくれたのか、傷は大した事無いですね」
「…はい」
「問題は……」
「っう!」
話ながら那月さんが触れたのは、目立たないように気を付けていた足首だった。
「まぁ、捻挫ですね。
湿布をして固定しておきますが、しばらくは安静にすることをおすすめします。捻挫は癖になりますからね」
「…はい」
「花乃は、嘘が下手ですね」