えっ?楓ちゃん、こんなに小さいのに戸を開けられるの?
驚いて楓ちゃんを凝視すると、後ろ足で立って前足でカリカリと戸に隙間を開けた。
そこから楓ちゃんがするりと中に入ってしまうと、その隙間に那月さんが足を掛ける。
「お客さまをお招きするには少々品がないですが、両手が塞がってますのでご容赦下さい」
「ぁ…すみません」
「謝る事はありませんよ。
私に会いたくて走ってきてくれたんでしょう?」
そ、その笑みは何でしょうか……
図星過ぎて返事の出来ないあたしを、上がり框に座らせると奥に消えていった。
…なんか、那月さんって心臓に悪い気が……
「失礼ですね?」
「は、はひっ!?」
「心臓悪いような人間に、そんなに会いたかったんですか?」
えっ?あたし声に出していた?
あたふたと視線をさ迷わす先に、あたし専用にしてくれた、桃色の湯呑みが見えた。
何となく安堵して、那月さんに視線を戻すと、あたしの膝の上にバスタオルを広げている。
「…あの?」
「細身のジーンズなので、捲り上げる訳にはいかなそうですよ?」
「いえ…そうじゃなくて……」
「ですから、そのタオルで覆ってて下さい。裾を引いて脱がせますから」
「え?えぇぇぇっ!?
いえ!結構です!自分でやりますからぁ!」
こ、この人は何真顔で言っちゃってくれてんでしょ。
「そうですか…残念ですね」
そ、そんな気落ちした顔しないで下さいよぉ…