「あの…足元見えないし…重いので……」
「ここから家までなら、目を瞑ってでも帰れますよ。
それに、あなたは軽すぎます。中身入ってますか?」
…それは…胸の事でしょうか?
抱かれてるからか、目線がその辺りな気が……
「でも…」
「うるさいですね。じゃあ目をつぶって歩きましょう」
そう言って那月さんは、本当に目をつぶって歩き出した。
「お、おろしてって言わないから目開けてくださいぃっ!」
こ、怖すぎる……
「仕方ないですねぇ、花乃がわがまま言うので開けといてあげますよ。それに、花乃の顔が見えないのも勿体ないですしね?」
「なっ、那月さん…いじわるです」
「花乃の事は、ついいじめたくなってしまいますね」
綺麗に微笑むのに、言ってる事は……S ですね。
歩きながらあたしの顔を見詰めるから、近すぎて心臓がおかしくなる。
顔を背けると、那月さんにくっつく形になって、それはそれで心臓に悪い。
支えてくれる腕もくっついてる胸板も、見た目よりしっかりした筋肉で覆われていて、あたしの鼓動ばかりが早くなる。
飛び出しそうにドキドキしているのが伝わってしまいそうで、余計に緊張してしまう。
見上げた時の綺麗な顔も、フワリと漂う甘めの香りも、あたしには刺激が強すぎだ。
着流しの合わせ目がずれて、綺麗な鎖骨がよく見える。鎖骨フェチなんて人がいることに思わず納得してしまった。
「到着。楓、戸を開けてください」