明美ちゃんは、急きょ武さんに仕事を頼まれたとかで、那月さんの所へ行くのはあたし一人になった。
まぁ…二人居なくなるのも隠しづらいから、これで良かったのかも知れないけど。
久しぶりに歩く踏み跡道は、季節柄だいぶ草が伸びてきて歩きづらくなっている。
先に月の原に行こうと思った。
何となく祠に手を合わせて、それから如月窯の方まで行こうと思ったからだ。
月の原にだいぶ近付いた時。
聴こえてきたのは、初めて会った日に那月さんが奏でていた竪琴の音。
足元が悪いのも構わずに走り出した。
那月さんに会いたい!
「…あッ!?」
目の前が開けたら所で、運悪く何かにつまずいた。
「……花乃…?」
うわぁ…最悪……
久しぶりの再開が転んだ状態って…恥ずかし過ぎる……
「走って来たんですか?」
「ぁ…はい」
「あぁ、取り合えず家に行きましょうか。
消毒しなければいけませんし」
ジーンズの膝が破れて、血が滲んでいる。
けっこう痛い…
立ち上がろうとした途端、竪琴のケースを背負った那月さんに抱き上げられた。
「えっ?あ、あの!歩け……」
「大人しくしてないと落としますよ?」
落とされるのは嫌だけど、この状態も……
「楓、おいで」
後ろを向きながら声をかけると、しっかりした足取りで歩き始めた。