「なぁ、花乃の味方になってくれそうな人はおらんの?十夢のヤツに頼ったら板挟みになって可哀想やし…」
その時ふと浮かんできたのは、結局あの日から会っていない那月さんの顔だった。
そんなあたしの顔を覗き込みながら、明美ちゃんが真剣な顔をして言う。
「なぁ、近くの人なん?」
うんって言ってないのに、居る前提ですけど…
「よっしゃ!それやったら夜になったら、会いに行けばいいな」
「えっ!?」
決定事項とでも言うように、明美ちゃんはハッキリと言うと、なんだかスッキリした顔で伸びをした。
あたしの荷物を入れるために、押し入れを半分開けてくれながら鼻歌まで歌っている。
あぁ…しばらく鼻歌すら歌ってないなぁ……
「失礼致します。女将さんが呼んでいますから、お部屋まで行ってください」
伝言を伝えた途端に踵を返す恵美さんの背中を、ぼんやりと見ていた。
こんなに、よそよそしかっただろうか…
心配する明美ちゃんに、大丈夫だよと手を振って、とぼとぼ歩いておばあ様の部屋の前に立った。
入りたくないなぁ…
コンコンッ
「お入りなさい」
「…失礼します」
部屋の中には珍しくおばあ様だけだった。
最近、 永野絵里抜きで会う事が無かった事に改めてため息が出る。
「なにかご用でしょうか」
用がないとおばあ様の部屋に呼ばれる事も無くなっていたから。
一緒にお饅頭を食べながら、まったりお茶を飲んだ事がもう懐かしい…
「部屋の移動はつつがなく済みましたか?」
やっぱり、永野絵里に関する事なのね。
……おばあ様が賛成してるっていうのが、永野絵里の虚言であったならどんなに良かっただろう…
まぁ、今その望みはバッサリ断たれたんだけど。