「…なぁ、女将さんには相談したん?」
「ううん、でもおばあ様も認めたって…」
笑いたいのに、たぶん今のあたしは笑えてない。
それでも、出来るだけ明美ちゃんには迷惑をかけたくなかった。
「一回、腹割って話さないかんと違う?」
「…でも」
「なぁ、あの女と花乃の間に何があったん?
いくらなんでも度を越してるやろ」
永野絵里は、小、中、高と同じ学校の出身だ。
彼女は金持ちの町長の娘で、昔から人を見下すことに慣れた子どもだった。
唯一の共通点は、初恋が桜ちゃんだって事だろう。
「…ただの同級生だよ」
「いやいや、いくらなんでも無理があるやろ」
すかさず突っ込むのは、関西仕込みだろうか。
くだらない事を考えるあたしに、明美ちゃんの言葉が追い討ちをかける。
「あいつ、桜介の部屋にも勝手に入ってるんやって」
「え…?」
「女将さんが合鍵くれたって自慢しとった。
まぁ、貰ったのが桜介からじゃ無いってのがカッコ悪いけどなぁ」
酷い…主の居ない部屋に勝手に入って何をしてるんだろう……
「相変わらず十夢にも迫ってるしな。
あれはキモいわ」
知花さまは、桜ちゃんを想っているからここから離れられないし、月守旅館を潰したくないから永野絵里にも辛く当たれない。
そんな事も知らずに、知花さまに言い寄るなんて嫌悪感しか湧いてこない。