ほんの、2日宗司朗さんちに泊まっただけなのに、寮が随分久しぶりに感じる。

 他のみんなはもちろん相変わらずだ。

 遠征で人が減っている分静かな気がするが、それも、そんな気がするだけかもしれない。

 風呂に入って、岬の部屋に入る。

 岬の部屋はあまり片付いていなくて、隅で服がごちゃごちゃになっていたり、マンガやゲームが本棚からはみ出て山積みになっていたが、勝手に片付けるのもよくないと思い、そのままベッドで横になった。

 まだ、少し時間が早い。

 テレビ、見に行こう。

 私は岬の部屋から出ると、1つ空室を通り過ぎて、新堂の部屋の前に立った。

「失礼します」

「おう」

 返事をして、ドアを開ける。すると、まだ中ではペンを持って仕事をしている新堂の姿があった。

「おぅ。どうした?」

「いえ……あの……」

 テレビはその隅にあるが、見せて下さいとはとても言い難い。

「何だ?」

 新堂は手を止めて、顔を上げる。

「あの、テレビを見に来たんですけど、また、今度でいいです……」

 言いながらフェードアウトしようと思ったが、予想外に

「あー、じゃあ俺も風呂入るかな」

 と新堂が筆を置いて伸びをする。

「あっ、いえっ! お構いなくっ!!」

「あ? 別にオメーに構ってるわけじゃねーよ。風呂入って来る。その間好きに見てろ」

 新堂は素早くパジャマを用意するとそのまま洗面室に入って行ってしまう。

 私は、お言葉に甘えてテレビのスイッチを入れた。

 しばらく見ているうちに、肌寒くなり、部屋から掛け布団を持って来て、包まることにする。

 テレビはあまり面白くない。雅のボケや宗司朗さんの突っ込みがないと、テレビを見ていても全然詰まらない。

 20分ほどして新堂が戻ってくる。

「寒いか?」

 まだ髪が半分濡れたままの新堂は、ベッドを整えながら聞いた。

「……私、やっぱり宗司朗さんの所へ帰りたい」

「あ?」

 新堂の視線を感じたが、気付かないふりをしてそのまま続けた。

「2日泊まっただけだけど、すごく楽しかった……」

「お前なあ……」

 新堂はどすん、と私の目の前に座り込み、頭を人差し指でポリポリかいた。

「お前、あのヤローから逃げて来た時もここが楽しいとか言ってなかったっけ? で、次はなんでも屋か?」

「あ……」

「楽しいってーのはテメーで作ってくもんなんだよ。お前が言ってるのは、俺や総悟見て楽しいと思ったり、なんでも屋トリオ見て楽しいと思ったり、そういうことだろうが。そうじゃなくて、お前自身が関わってけよ」

「…………」

「今ここで楽しむのは総悟がいない分難しいかもしれねぇ。けど俺や、他にも色々いる。みんな気安い奴らだ。ここで住むとなった以上、自分から心開いて楽しめよ。そうじゃねーから、あそこがよかった、ここがよかったってなるんだろうが。

 みんな楽なとこがいい。それは分かる。

 なんでも屋もお前を預かって、それなりにしてくれたんだろう。だからお前が楽しいと、楽だと思ったんだろうが、奴は奴なりに気を遣ってたと思うぜ?

 今のお前みたいに」

「…………」

 あんなに自然そうだったけど、他人を預かるってやっぱりそれなりに気を遣うよね……。

「ま、総悟が帰って来るまでの辛抱だ。後はあいつにわがまま言えばいいさ」

「……あのっ……私、本当に結婚するんですか?」

 私は新堂の目を見て聞いた。

「……いーんじゃねーの? 俺は昔からよく知ってっし、悪いとは思わねーけど」

 新堂は、立ち上がり、デスクの上を片付け始める。

「私、だって。岬さんのこと何も知らないし。突然結婚って言われて、……戸惑ってます」

「は!?……んじゃ、何で携帯買ったんだよ!?!? お前、俺に総悟からの金だって言われて素直に受け取って使って、何も知らないってそりゃねーだろ!? あ!? …………」

 新堂は何か言いかけて、やめる。

「…………、テメーみてぇな奴、総悟のことでもなきゃ追い出してるよ」

「…………」

「…………、もいい。今日は寝ろ」