正直、恐怖感がないわけではない。いつの日か殴られた時から、それはしっかり植え付けられた。 だから、その影に無意識にも身を構えてしまうのは仕方ないのかもしれない。 しかし今回は―――…違う。 あたしは、見据えられた彼の目を見て直感的にそう思った。 相変わらず黒い衣服を身に纏った彼は、“無表情”というよりも“放心”といった感じだった。 いつも以上に、危険で冷たい空気をまとっている―――。