面白い事があれば笑えるとも限らないのだけども。そう思うあたしは長らく口角の筋肉を使っていないのだろう。

後退り、胸元が気持ち悪い。後退り、彼の瞳に迷いがない。何故かそれがあたしの心臓を叩く。


「――やめて下さい。」

「何を。」

「構わないでって言ってるの!そんな目向けるの、やめてっ!」


――やってしまった。


キレた方が負け、とかって言うけれどあれは本当だと思う。現に彼は、勝利を確信しあたしから離れた。