甘いキスは放課後に




見てると胸が苦しいほど痛くなる人がいる。


だけど目をそらすことは敵わなくて、どうしても見つめ続けてしまう。


こんなの初めてで、だからどうしていいか分からなかった。


その人と少しでも言葉をかわす。胸がときめくということはこういうことか、と思った。


いつかその人と…なんて妄想してたけど、やっと気付いた。


待っているだけじゃ何も変わらない。だって妄想なんだから。


だったら。


自分から動いてみようか。


叶わないのなら叶わないなりに足掻いてみようか。




ねぇ、先生…。


先生とキス…したい。


キス、しよ…?



望月 実莉:Mochizuki Minori
・高2
・モテなくもない
・男に興味がないわけじゃない
・恋愛に対してちょっと冷めてる
・16歳にて、自身が肉食だと気付く


白石 隆輔:Shiraishi Ryusuke
・教育実習生
・芸能人顔負けのイケメン
・保険医
・草食系?

行平 紗恵:Yukihira Sae
・実莉と同級生
・モテる
・社会人の彼氏がいる
・実莉に負けず劣らず肉食



少しずつ暑くなってきて、だけど衣替えはまだだから制服がベタついて憂鬱。そんな今日、教育実習生がやってきた。


ただ今、高2の5月。残念ながらゴールデンウィークは過ぎ去ってしまった。そんな朝からかったるい日なのに、教室は…というか学校は、妙に活気に溢れていた。


遠足前の小学生みたい。


あ、でも少し違った。テンションが高いのは女子だけで、男子はむしろ、少し僻んでる?


「実莉ー。おはよー」


教室に入るなり声をかけてきたのは、よくつるむ紗恵。中学の頃からの仲だ。


「はよ。何?どうしたの、何か」


紗恵は私の席に座っていたので、私は後ろの紗恵の席に座る。


「んー、何かねー。
教育実習生が来るらしい」


「らしいって、確か今日じゃん。
何、それってよくある」






「そ、イケメン」


「若いだけだろ」


呆れた。そんだけでこんなにも朝から…。


私はゴールデンウィークのほうで頭がいっぱいだ。もっと有意義な過ごし方があったのではないか。どうやらタイムマシンはなかったらしい。


紗恵がチッチッと舌を鳴らす。


「そーれが、違うんだよねー。
さっき写メったの見たんだけどさ、あれは本物のイケメンだわ」


「撮ったの?あほらし」


だったら偽物のイケメンって何だ。


「まーでも、本当だったよ」


「そうすか」


私は興味が失せたというように、適当な返事を返した。


「まあ、見てみなよ。
全校朝会で紹介されるだろうから」


「眠るかも」


やば、言ってるそばからあくびが…。





「ちなみに、教科は保健」


「うあー、ありがち」


「すごいよね、少女漫画みたい」


本当だ。教育実習生がやって来て、そいつは女子がリスクを犯してまで写メりたいほどのイケメンで、しかも保健医。そんなの。


「エロいなー、けど」


「けど?」


「絶対あり得ないね」


何かあるかも、とか。密かに思ってる子って、たくさんいるんだろうなー。


「まさか、期待とかしちゃってる?」


「それこそ絶対あり得ない。紗恵が一番解ると思うけど」


「嬉しくない信頼」


「こら」


可愛い子ぶって眉を寄せる紗恵に苦笑して、窓の外に目を向けた。


快晴。空はどこまでも真っ青に、雲ひとつなく広がっている。強くない日射しが眠気を誘うだろうなあ…これ。何よりあったかいし。うん。


教育実習生がやってきたのは、そんな日だった。






「教育実習生の紹介」ということで、臨時の全校朝会が行われた。


体育館では予想通り、私の他にもあくびを漏らしている生徒が何人か。だから眠いんだってば。


いくら現役高校生の私たちでも、ここまで寝心地良さそうな天気と気温には、勝てなかった。いや、勝てなくていいから寝たい。


だけどそんなのは男子ばかりで、女子は例の教育実習生「イケメン保健教師」の話題で興奮している様子。目立ちたがりな男子が少し文句を言うだけで、女子の皆さんは睨みをきかせて黙らせた。お見事。


ぞろぞろと全校生徒が集まり、朝会が始まった。


ステージにはパイプ椅子が一脚。これから登場するであろう教育実習生が座る。






教頭がマイクを手に咳払いした。


「えー、それではこれから、本年度の教育実習生の歓迎式を始めます。一同、礼。
…ではまず、教育実習生、入場」


体育館の後ろの方にスタンバってた吹奏楽部の演奏が始まり、生徒がパラパラと拍手する。まーなんつー心のこもってない拍手。でも普段よかは大きいか。特に女子の皆さん。


「ふぁ…あー…眠…」


堪えきれなかったあくびを漏らしながら、私も両手を振った。ぱちぱち。


「「「キャーッッッ」」」


うっほー目ぇ覚めた。何だ今の。


突然覚醒した意識に慣れぬまま、顔を向けた先を歩いていたのは、まあ、すっご
いイケメン。


本当にいるんだな。ああいう、芸能人でもない一般人に、アイドル顔負けの美人が。