だけど桜音は必死に言う。


「苦しいですよ~…酸欠になります」

「キスぐらいで酸欠になりませーん」

「もし私がなったら?」

「全力で介抱してやる」

「意地悪なのに優しいんですね…」


もちろん意地悪するのも、優しくするのも桜音にだけ。


桜音はフェンスによし掛かり、澄んだ青空をパッチリした目で眺めた。


「私……両親が…医者、なんです」

「すごっ!医者家系じゃん」

「一般的にはそう言われますね。お金もあって幸せだろうって……」

「幸せだろうな。普通に見て」


珍しく桜音がいきなり家族の話しを始めた。


もっと嬉しそうな、笑顔で話すような家族の話しを桜音は寂しそうな笑顔で話す。


この笑顔だ………


俺がたまに見る桜音の寂しそうな笑顔。