君の隣で~☆星空☆続編~【完】




何もかも失った。


喜びも、

悲しみも……。



それでも、
いつも笑い続けていたんだ。




約束したから、



どんな時でも笑ってた。



辛くなったら、



星空を見て微笑みかけた。



そう、



感情を忘れた人形みたいに、あたしは生き続けてきた。




またいつか、


あなたと出会う為に……



その日が来るまで、




笑い続けるつもりだった――。
翼がこの世からいなくなってしまったのに、



回り続けてる世界。




過ぎ去って行く時間……。




生き続けてる1人の女。





翼を失ってから、



翼のいる海で、最後に「さよなら」を言ってから、




あたしは、部屋のカーテンとドアと共に、



心も閉ざした。



もう、二度と……



あんな風に、なげきながら泣く事も……




笑う事もないだろう……。
それから、あたしが外に出るのに必要なものは“時間”だった。




翼のいる海から戻ったあたしは、




翼のいない世界に足を踏み入れる事さえ恐くて脅えてる日々……。




「ばっかみたい!」




あたしが外の世界へと、また足を踏み出したのは理恵からの怒りを表した一言。




その言葉を投げ捨て、あたしの部屋から出て行った理恵の後を追うように……



ベッドの上に綺麗に置いてある思い出の写真を抱え、

翼のいる海へと逢いに行った。




翼と最後に撮った数々の写真……



あたしの中で“永遠の思い出になる”



そう、素直に思ってずっと開けられずに大切に自分の傍にいつも置いていた。



だけど……



翼のいる海で開けた数々の写真は……




あの翼の笑顔がなかった。



翼が最後に残した
あたしへのプレゼントなのに……


翼は何かを決心したかのように、



言葉では表せないほど、


とても、とても悲しい顔をしてた……。



これが本当の翼の姿だったんだって……


衝撃や憎しみ、怒り。


傷を負ったばかりの、あの時のあたしには、


知る由もなく……。



翼の笑顔のない、悲しい顔をした手の中にある真実の姿を写した写真を見て……



あたしは、また変わり始めて行った。




“あたしが翼を殺した”
「あんたが翼を殺したのよ!!」




翼のお母さんが、



あたしに言い放った言葉が何度も何度も繰り返される。



まるで、


その言葉以外、あたしの頭の中は受け付けなくなってしまったかのように……



翼の笑顔のない写真たちに、



あたしの涙が零れ落ちていく……。



そのうち、涙で滲んだ写真たちは翼の顔さえもぼやかしていった。




“もう、ここには来ちゃいけないんだ”


“あたしの来る場所じゃない”



そう強く思いながら、涙を拭き、唇を噛み締めると



海を振り返らずに写真を抱え、




あたしは、ひとり海を後にした。
その日を境に、あたしはどんどん変わっていった。




あたしに恨みを持った奴らの監禁……




あたしの上で男が腰を振り果てていく姿を目を反らさず見続ける毎日。





辛いとか、怖いなんて感情すらわいて来なくて「殺しちゃってよ」そう言い続けていた。


何度も何度も殺してくれる事だけを願った。



それでも、また生き続けちゃったあたしは、




薬物に溺れた――



全てを忘れさせてくれてた色々な薬……




手当たり次第に手をつけ、



もう現実から逃げる為の
最終手段まで手に入れた。


楽だった……



全てを忘れさせてくれたんだ……




大好きだった翼のことさえも。





ただ逃げ続ける為だけにあたしは薬を選び……



簡単に人間を捨てた。



だけど、



気が付いたら大切なものを全て失っていた。



薬がきれた時、とてつもない寂しさと苦しさが襲うと、



寂しさから逃れる為に、あたしは男へと走った。



腐ってた……




頭の中も


心の中も


体も……。



人間と呼ぶには程遠い、壊れた人形のように、



こんな醜い姿になったあたしを救ってくれたのは……


見捨てないでいてくれたのは……




理恵だった。
クスリ



オトコ





その2っだけが、あたしの中で存在していてグルグル回っていた。



「あんたは人間のクズだよ最低だよ!!」



そんな理恵の怒鳴り声すらも届くハズもなく、



怒鳴られては殴られ、それでも痛みなんて感じなかった。




「流奈じゃない!!こんな人間の痛みを分からない最低な奴なんか流奈じゃないよ!!」



「元に戻ってよ、人の痛みも分かる、心から笑ってた流奈や愛を知った流奈に戻よ!!」




そう何度も殴られ続けながら、そう泣き叫ぶ理恵をただ呆然と見つめていた。





“人の痛み?”



“愛?”


冗談じゃない、



笑わせないでよ。



そう心の中で思って理恵を睨んでた。




そんなもの、もう必要ない……。



そんなの、あたしにはいらない。






「無駄だよ?理恵、あたしになにを言っても」



そう笑っていた。




“笑っていればいい”



ただ翼のその一言だけが、あたしの頭の中にずっと残り続けてた。
あたしが薬物から足を洗ったのも自分の意志なんかじゃなかった。



地元は薬物厳禁。



薬物やってた奴がいたら



男、女変わらず容赦なしに金属バットで殴られていた。



それで何人も病院送りになっていたのを見ていた1人があたしだ。



でも、この時のあたしは
恐いものなんてなかったから…。


ばれたって関係ないって思ってた。





でも、そんなに甘くないのがあたしの踏み入れてしまった世界。



あたしは薬物の恐ろしさなど分かっていなかった。



どんどん蝕んでく心、体を……




もう、手に負えないところまできていた。




「……うっ!!」



薬でいっちゃってたハズなのに、とてつもない痛みが体中に走っる……。



「ゲホッ!!………」




口から出る大量の血。



体がふわふわしてたのと同時に半端じゃない痛みが走り、夜中の路地裏で壊れたあたしの笑いと悲鳴が響き渡っていた。




チクリを入れたのは理恵……



これでも、先輩達は手加減してくれていたんだろう。


顔は誰だか分からない位に腫れ上がり、



どこから血が溢れているのか分からない状態だったけど、


体は弱ってた肋骨が再び折れただけだった。




そしてあたしは、


その後、先輩達に拉致られて監禁された。



あたしを更正させる為に。




先輩の家で、手足を縛られ薬が抜けて暴れるあたしを、みんなが辛そうな顔して見てみぬフリをしてた……




「はなせぇ―――!!」




辛かった……

苦しくて……


翼を失ってから失くなった感情がまた動き始めてた


悲しくも薬のせいで……

薬欲しさの為だけに……



動き出した感情だった。



先輩や理恵がこの時あたしを、こんな形で止めてくれなかったら……




きっと今のあたしは



この世にいなかっただろう。