女の子は本に目を落としながら言った。


「私のこと思い出した?」


それについては、全くだ。


本当に全く、覚えていない。

あのあと必死に記憶をさぐったけど、本当にわからなかった。


考え込みすぎて、昨日はいろんな人に「大丈夫?」と心配されてしまった。

俺は女の子のいるところまで、歩きながら言った。


「全くと言っていいほど、見覚えがない」


女の子はクスッと微笑んで言った。


「まぁ、私。見ためとか結構かわったし」



変わったと言っても、ここまで見覚えがないと逆に不自然だ。


俺は女の子すぐ、近くのフェンスをガシャンッと鳴らしながらつかんで言った。


「お前はいったい何者なんだ?」


女の子は少し驚いたように顔を上げた。


そして、ピンクの唇を開いて言った。


「人間」


効果音をつけるなら、【ガクッ】だ。


拍子抜けもいいところだ。