しばらくその場で息を整えたあとに、俺はつぶやいた。


「……くそ!」


あと少しだったのに!!


あの女の子はいったい、なんなんだよ!?


行くってどこに行くんだよ!?


近くの壁にもたれかかる。


本当に俺はあの女の子と会ったことがあるのか?


……くそ!

やっぱり思い出せねぇ!!


俺が頭を抱え込んだとき、聞き慣れた声が俺の耳に流れ込んできた。


「零也?お前なにしてるんだ??」


俺は声のするほうを見た。

首をかしげながら、片眉をあげてそこに立っていたのは父さんだった。


そうだ!

父さんなら、あの女の子のこと知ってるかもしれない!!


「父さん!?」

「な、なんだ??」


俺は父さんに詰め寄って言った。


「あのさ!これくらいの長さの茶髪の女の子しらない!?垂れ目の女の子!!」


俺は身振り手振りで女の子の、髪の長さや、身長を表す。


父さんは一瞬、考え込んですぐに頭をふって言った。


「いや、知らん。そんなどこにでもいるような特徴じゃあ、分からん。名前は分からんのか?」


名前……なんて知らない。


会ったばっかりで、少し会話しただけだ。

俺はなんとも言えない悔しさに襲われた。


向こうは俺の名前を知っているのに、俺は向こうの名前を知らない。


なんかそれってアンフェアだ。


でも今はどんなに言ったって、父さんに説明できるほどあの女の子のことは知らない。


俺は微笑んで言った。


「なんでもない。気にしなくていいよ。……そうだ!なんか手伝うことある?」


もう、こうなったら明日屋上に行くしかない。