「いや、思ったより透けてるなと思って……」
「え゛!?」
視線で気づく。ワイシャツのことだ。
「え、だって、これしか服なくて……」
「気づかなかった? とりあえず上の服以外は置いといたんだけどなあ。須賀君に言ってなかったかな……」
それ結構大事なことだと思うんですけど……。
「着替えてきます」
「上の服はクリーニング出してるから。そのままでいいよ」
「え」
「昨日吐いた時に汚れちゃってたから」
「え゛!! あ、すみません……。とりあえず着替えてきます」
寝室に入って、言われて見てみてようやく気づいた。ベッドサイドのところにバックとセットで洋服がちゃんとたたんで置かれている。全く見ていなかった。
しんどい体に鞭打って、ジーパンを装着し、ワイシャツを再び着る。どうしても下着が余計透けているが、仕方がない。ハルトは多分きっと大人だし、そんなたかが小娘の下着の線が見えたってどうとも思わないだろう。
リビングに出ると、ハルトはソファに腰掛け、カキ氷を前にスマホをいじっていた。
こちらに気づくと、すぐに顔を上げて一言、
「……女の子がメンズ着るとどうしてセクシーなんだろうなあ……」
知りませんよ、そんな個人的主観。
「……さあ……」
「カキ氷ね、何味がいいか分からなかったから、とりあえず前種類買って来た」
「えー、ありがとうございます!」
さあ、食べよう、イチゴだイチゴ!! よかった、イチゴと抹茶とみぞれが一つずつある。
「残りは冷蔵庫に入れときましょうか」
「うん」
冷蔵庫を勝手に開けてもいいということだろうと思い、残りを入れて、いざソファに腰かけハルトの左隣で食べ始める。
「おなかすいてたんですけどね、冷たいあっさりした物しか食べたくなんて」
「気分はだいぶよくなったんだ。昨日はひどかったよー。覚えてる?」
「全然、全くです」
「どの辺から記憶ないの?」
「えー……、私、お金払ったんですかね? その記憶はないし……何しに行ってたんだろう。皆と離れてた気がする」
「ほんとに全然覚えてないんだ……。あのね……、途中でトイレで吐いて、寝てたんだよ」
「そ、そうなんですか……。そんな飲んでないのになあ……だってカクテル3杯しか」
「体調悪かったんじゃないかな? もしかして、ドライブで酔ってた?」
「うーん……そうだったのかな……」
とてつもなく綺麗なリビングで100円のカキ氷を食べる。その隣には、あの超有名綺麗どころのハルトと、昨日吐いて服を汚した私。
「すみません、でも本当ありがとうございました。これ食べたら帰ります」
「いいよいいよ、気にしないで。僕も仕事終わったんだし。それに、そろそろクリーニングできる頃だし」
「あそうだ、すみません、何から何まで……そんでもってこれもハルトさんの服ですよね……」
「うんそう、何も着ないよりはマシかと思って」
「すみません……もう全然記憶なくて……あらって返しま……」
喋りながら食べたせいで、イチゴが見事にワイシャツに落ちた。
「わーーー、すすすみません!! 洗えば落ちるかなあ……」
「いいよ、別に。はいティッシュ」
「すみません……」
一生懸命拭いたって、ピンクの雫は確実にシミになっていく。
とにかく、早く帰ろうと心に決め、スマホ片手のハルトをよそに急いでカキ氷を食べた。
「夕食食べれそう?」
「いやー、今は全然」
早く帰りたい。
「そっか……残念だなあ、どっか行きたかったんだけどな」
ってそんな心内知りませんよ。
「じゃあまた、今度行きましょうか」
「今度っていつ?」
いつでしょうねえ……。
「いつ……あ、明日とか?」
だって提案待ってるんだもん。
「明日はちょっと無理かなあ」
ならじゃあまた今度ですね。
「じゃあ、また今度」
「うーん……明日は予定変えられないしな……。今度また、連絡ちょうだいね」
「はい」
「してくれる?」
「はい。あの、この服も返さないといけないし。クリーニングして返します、必ず」
「あぁ。そうだね……」
「……電話番号教えてください。もしよかったら。あの、お忙しいならユウジさんに渡しておきますけど」
「いや、僕に直接かけて」
私もバックからスマホを取り出して、お互い赤外線で登録を済ませる。
「なんか……ハルトさんといると、現実離れしますね」
「え、どこが?」
「こんな素敵な家に住んでるし……昨日、初めて会って、横須賀まで食事に行って飲んで記憶ないなんて、私の中でほんとにないことです」
「僕も……結構現実離れしてたかな……」
「え、あれはハルトさんの日常じゃないんですか?」
「違うよ。紗羅ちゃんみたいに可愛い子に出会わなかったら、そうはいかなかったかな」
へー、この人、こんなこと言うんだ。
「……へえ……」
視線のやり場に困って、とりあえず暗いテレビの画面を見た。隣からの視線はもちろん感じるが、知らんふり。
「怒った?」
なぜそう聞く?
「え、いえ……全く」
仕方なく目を合わせた。ハルトの食い入るような視線にすぐ逸らしたが。
「帰ります、私」
「……そう?」
「ここにいても……」
仕方ないし……。
「ここにいても?」
さすがに「仕方ないし」とは言えませんが。
「ハルトさんもゆっくりしたいだろうし」
「僕は紗羅ちゃんがいてくれた方がいいけど」
どうしよう……家に2人きりのせいか、攻め方が怖いんですけど……。
「え、あー……」
一度視線を逸らしてから、もう一度ハルトを見た。やはりこちらを見つめている。
「でも、元気になってよかった」
「……」
突然ソファの上に左腕を置き、こちらに向かって伸ばされてドキリとする。
ハルトは昨日洗っていない、汚れた髪の毛の頭を優しく撫でる。
「酒は量を考えて飲まないとね……人のこと言えないけど」
「え、ああ。そうですね……」
以外に言葉が浮かばないし、視線のやり場に困り、顔はどんどん俯いてくる。
「けどおかげでこうやって僕と一緒にいる時間が増えたから。それはラッキーだったかな……」
手馴れた風であった。俯いている顔の、その下から自らの顔を滑り込ませ、唇に軽くキスすることくらい、造作もないとでも言いたげで。
唇と唇が触れた後も、その前となんら変わらぬ様子でただ、世間話を続けた。彼の左腕だけを除いては。
それから彼の左手はずっと私の肩の上にあって、時折、会話の途中で指を動かしたり、撫でられたり。
そんなことを一々気にしている自分が恥ずかしくて、知らん振りするのに苦労をした。
ここからどうやって帰ろう……。ほんの会話の間で延々とその事項にのみ頭を回転させる。
「………で………」
ハルトが話すのをやめた。
「?」
不思議に思って、その顔を見る。
「疲れた?」
「え、いや、まあ……」
そうだ!! 疲れたから帰ろう!!
「でも、ちょっと……そろそろ、帰ります」
「帰る?」
そんなちょっと可愛そう気に言われても……。しかも、肩の上で指をなぞるのやめてほしいな……。
「……はい……」
「うん、じゃあ送るよ」
決心がついたのか。ハルトはさっと肩から腕を離した。
「すみません、ありがとうございます」
なんとなく謝罪の言葉が口から出たが、仕方ない。相手に出さされたも同然だ。
また今からハルトの車に乗るって……溜息物だ。だけど10程度で着くはずだし、タクシー代を浮かすつもりで、我慢しよう。
ハルト邸から私のマンションまでは非常に目立つ外車だが、優雅に送り届けてくれた。
そして、別れ際に釘刺しの笑顔と一言。
「僕はいつでもいいから、また連絡頂戴ね」
「え゛!?」
視線で気づく。ワイシャツのことだ。
「え、だって、これしか服なくて……」
「気づかなかった? とりあえず上の服以外は置いといたんだけどなあ。須賀君に言ってなかったかな……」
それ結構大事なことだと思うんですけど……。
「着替えてきます」
「上の服はクリーニング出してるから。そのままでいいよ」
「え」
「昨日吐いた時に汚れちゃってたから」
「え゛!! あ、すみません……。とりあえず着替えてきます」
寝室に入って、言われて見てみてようやく気づいた。ベッドサイドのところにバックとセットで洋服がちゃんとたたんで置かれている。全く見ていなかった。
しんどい体に鞭打って、ジーパンを装着し、ワイシャツを再び着る。どうしても下着が余計透けているが、仕方がない。ハルトは多分きっと大人だし、そんなたかが小娘の下着の線が見えたってどうとも思わないだろう。
リビングに出ると、ハルトはソファに腰掛け、カキ氷を前にスマホをいじっていた。
こちらに気づくと、すぐに顔を上げて一言、
「……女の子がメンズ着るとどうしてセクシーなんだろうなあ……」
知りませんよ、そんな個人的主観。
「……さあ……」
「カキ氷ね、何味がいいか分からなかったから、とりあえず前種類買って来た」
「えー、ありがとうございます!」
さあ、食べよう、イチゴだイチゴ!! よかった、イチゴと抹茶とみぞれが一つずつある。
「残りは冷蔵庫に入れときましょうか」
「うん」
冷蔵庫を勝手に開けてもいいということだろうと思い、残りを入れて、いざソファに腰かけハルトの左隣で食べ始める。
「おなかすいてたんですけどね、冷たいあっさりした物しか食べたくなんて」
「気分はだいぶよくなったんだ。昨日はひどかったよー。覚えてる?」
「全然、全くです」
「どの辺から記憶ないの?」
「えー……、私、お金払ったんですかね? その記憶はないし……何しに行ってたんだろう。皆と離れてた気がする」
「ほんとに全然覚えてないんだ……。あのね……、途中でトイレで吐いて、寝てたんだよ」
「そ、そうなんですか……。そんな飲んでないのになあ……だってカクテル3杯しか」
「体調悪かったんじゃないかな? もしかして、ドライブで酔ってた?」
「うーん……そうだったのかな……」
とてつもなく綺麗なリビングで100円のカキ氷を食べる。その隣には、あの超有名綺麗どころのハルトと、昨日吐いて服を汚した私。
「すみません、でも本当ありがとうございました。これ食べたら帰ります」
「いいよいいよ、気にしないで。僕も仕事終わったんだし。それに、そろそろクリーニングできる頃だし」
「あそうだ、すみません、何から何まで……そんでもってこれもハルトさんの服ですよね……」
「うんそう、何も着ないよりはマシかと思って」
「すみません……もう全然記憶なくて……あらって返しま……」
喋りながら食べたせいで、イチゴが見事にワイシャツに落ちた。
「わーーー、すすすみません!! 洗えば落ちるかなあ……」
「いいよ、別に。はいティッシュ」
「すみません……」
一生懸命拭いたって、ピンクの雫は確実にシミになっていく。
とにかく、早く帰ろうと心に決め、スマホ片手のハルトをよそに急いでカキ氷を食べた。
「夕食食べれそう?」
「いやー、今は全然」
早く帰りたい。
「そっか……残念だなあ、どっか行きたかったんだけどな」
ってそんな心内知りませんよ。
「じゃあまた、今度行きましょうか」
「今度っていつ?」
いつでしょうねえ……。
「いつ……あ、明日とか?」
だって提案待ってるんだもん。
「明日はちょっと無理かなあ」
ならじゃあまた今度ですね。
「じゃあ、また今度」
「うーん……明日は予定変えられないしな……。今度また、連絡ちょうだいね」
「はい」
「してくれる?」
「はい。あの、この服も返さないといけないし。クリーニングして返します、必ず」
「あぁ。そうだね……」
「……電話番号教えてください。もしよかったら。あの、お忙しいならユウジさんに渡しておきますけど」
「いや、僕に直接かけて」
私もバックからスマホを取り出して、お互い赤外線で登録を済ませる。
「なんか……ハルトさんといると、現実離れしますね」
「え、どこが?」
「こんな素敵な家に住んでるし……昨日、初めて会って、横須賀まで食事に行って飲んで記憶ないなんて、私の中でほんとにないことです」
「僕も……結構現実離れしてたかな……」
「え、あれはハルトさんの日常じゃないんですか?」
「違うよ。紗羅ちゃんみたいに可愛い子に出会わなかったら、そうはいかなかったかな」
へー、この人、こんなこと言うんだ。
「……へえ……」
視線のやり場に困って、とりあえず暗いテレビの画面を見た。隣からの視線はもちろん感じるが、知らんふり。
「怒った?」
なぜそう聞く?
「え、いえ……全く」
仕方なく目を合わせた。ハルトの食い入るような視線にすぐ逸らしたが。
「帰ります、私」
「……そう?」
「ここにいても……」
仕方ないし……。
「ここにいても?」
さすがに「仕方ないし」とは言えませんが。
「ハルトさんもゆっくりしたいだろうし」
「僕は紗羅ちゃんがいてくれた方がいいけど」
どうしよう……家に2人きりのせいか、攻め方が怖いんですけど……。
「え、あー……」
一度視線を逸らしてから、もう一度ハルトを見た。やはりこちらを見つめている。
「でも、元気になってよかった」
「……」
突然ソファの上に左腕を置き、こちらに向かって伸ばされてドキリとする。
ハルトは昨日洗っていない、汚れた髪の毛の頭を優しく撫でる。
「酒は量を考えて飲まないとね……人のこと言えないけど」
「え、ああ。そうですね……」
以外に言葉が浮かばないし、視線のやり場に困り、顔はどんどん俯いてくる。
「けどおかげでこうやって僕と一緒にいる時間が増えたから。それはラッキーだったかな……」
手馴れた風であった。俯いている顔の、その下から自らの顔を滑り込ませ、唇に軽くキスすることくらい、造作もないとでも言いたげで。
唇と唇が触れた後も、その前となんら変わらぬ様子でただ、世間話を続けた。彼の左腕だけを除いては。
それから彼の左手はずっと私の肩の上にあって、時折、会話の途中で指を動かしたり、撫でられたり。
そんなことを一々気にしている自分が恥ずかしくて、知らん振りするのに苦労をした。
ここからどうやって帰ろう……。ほんの会話の間で延々とその事項にのみ頭を回転させる。
「………で………」
ハルトが話すのをやめた。
「?」
不思議に思って、その顔を見る。
「疲れた?」
「え、いや、まあ……」
そうだ!! 疲れたから帰ろう!!
「でも、ちょっと……そろそろ、帰ります」
「帰る?」
そんなちょっと可愛そう気に言われても……。しかも、肩の上で指をなぞるのやめてほしいな……。
「……はい……」
「うん、じゃあ送るよ」
決心がついたのか。ハルトはさっと肩から腕を離した。
「すみません、ありがとうございます」
なんとなく謝罪の言葉が口から出たが、仕方ない。相手に出さされたも同然だ。
また今からハルトの車に乗るって……溜息物だ。だけど10程度で着くはずだし、タクシー代を浮かすつもりで、我慢しよう。
ハルト邸から私のマンションまでは非常に目立つ外車だが、優雅に送り届けてくれた。
そして、別れ際に釘刺しの笑顔と一言。
「僕はいつでもいいから、また連絡頂戴ね」